オフコースがとても好きだった。中学高校大学と10年はたゆまず聴いていた。
高校は工業高校で男子がほとんどで、ガラの悪い連中、不良などがたくさんいた。僕は、その中でもかなり浮いていた。
いまでも世の中から浮いているが、
中学の時、校庭を走るみゆきちゃんに恋をして、片思いの数年間。高校受験ぼくはを失敗し、みゆきちゃんは、普通科の高校へ、ぼくはなんと
みゆきちゃんのマンションのまえの高校に行くことになった。
離れ離れになるまえに、告白をしようと僕は考え、なんとかラブレターをかく。書いては破り、書いては消して、なんとか封筒に入れた。
家のポストにいれるか、郵便にだすか、迷った。同じ町なのに・・。ポストにいれようと、決心した。
しかし、ポストの前にいくと、やっぱりやめとこう。と、引き返す。
しかし、せっかく書いたんだから、出せよ、と、もう一人の自分がささやく。
出す。出さない。と歩きながらつぶやく。そのまま、ポストをとおりこし、また違うポストをみつけ、そこもすどおり
また、悩み。繰り返し。
と、ポストの前で、立ち止まっていると、
郵便局の人が、集配に来た・
「その封筒もだすんだね?」
ぼくはびっくりして、
「いや、」と、固まった。
「出すの?ださないの?」
ぼくに聴いてきた。
ぼくは、
「出します」といって、渡した。しかし、後悔した、返してもらおう、やっぱやめとこう。
そして、みゆきちゃんからの返事が、かなり遅れてやってきた。
「びっくりしました。いい友達でいてください。」と返事が来た。いわゆる。振られるときの決めセリフ。
ぼくは、いいともだちか・・。まあ、それでもいいや。しかし、最後のほうに、文通でよかったら、とあったので、
そうか、文通交際か・・。
そこから三年間、果てしない、文通が始まった。違う学校だったので、高校のことが書かれていた。
そこには、いきいきと楽しく高校生活をエンジョイしている、文章が書かれていた。
ぼくはといえば、学校でなぐられたり、カツアゲされたり、うんざりするようなことばかりで、
本当に、高校はつまらない。とばかり、書いた。
ぼくはすぐに返信するが、みゆきちゃんは二か月くらい返事がなかった。
ポストをみにいくのが、ぼくの日課になった、
あるとき、手紙に、こう書いてあった。
「そんなに、つまらない日ばっかりなら、映画でも見に行こうよ」と、書いてあった。
ぼくは、すごく喜んだ。もう、嬉しくてうれしくて、高校二年の春だったか・・。
1979年のころの話。
二人で、駅で待ち合わせた。ぼくは汚いジーンズ。みゆきちゃんは、ミニスカートに、網目のサンダル。ビックリするくらい可愛かった。
本当にかわいかった。歩く姿をみんな、振り返ってみていた。
三宮に行くホームで、ぼくの高校のクラスの嫌な不良にみつかった。ホームの雑踏で、
しかし、神様は僕に味方をしてくれて、電車にすぐにのって、不良には絡まれなかった。
翌日、学校で、胸倉をつかまれて、あの子はだれだ、紹介しろ!と、いわれた。
そんないじめをされても、ぜんぜん、僕の幸福度は下がらなかった。
映画を見に行った。地震でつぶれた阪急会館の映画館。どこもいっぱいでした。
なんで、そんなのを見たのか、ルパン三世 のアニメだった。もっとロマンスものみればいいのに・・・。
映画館は満員で、二人で立ってみた。スクリーンのあかりにうつるみゆきちゃんの横顔をたまにちらちら見てた。
知らない間に、映画は終わっていた。
二人で三宮の街にでた、さんちかをあるき、喫茶店にはいった。
実を言うと、高校三年まで、喫茶店に入ったことがなかった。
きらきらと大きな瞳が輝く、ああ、みゆきちゃんはまえにいるんだ。
何を話したのか、
みゆきちゃんは、自分の大好きなお兄さんが、東京から帰ってくる話をしてた。早く会いたい。
おにいちゃんは、井上陽水が好きで、もうひとり、何とかが好きで、と話していた・
「ところで、おさたにくんは、誰が好きなの?」
ぼくは、アイスコーヒーを吹きそうになった。
「みゆきちゃんだよ」という答えをいいそうになったが
「私はね、秀樹が好きなの・・。陽水もいいな。」
なんだ、音楽か・・
「ぼくはね、オフコースがすきなんだ・・」と、つぶやくように、言った。
「オフコース? 私はあんまり聞かないな・・暗いよね」
ぼくは、言葉に困った。
「オフコースは音楽的にすごいんだ、ハーモニーがここちいいんだ・・」
二人で、港のほうに船を見に行った。しかし、船はあんまりいなかった。
みゆきちゃんは、サンダルが合わないようで、足が痛い、と言い出した、僕の肩をかりて、サンダルを履きなおした。
すこし、接近して、どきどきした。
ぼくは、おもむろに
「もう、帰ろうか・・」と言った。
ぼくが生まれてはじめのデートは終わった。翌日、高校でしばかれても、
初めて喫茶店にはいり、ふたりで歩いた港の光景、カモメが飛んでいた。
僕の 愛は止まらない、工業校でみんな就職するんだが、ぼくはみゆきちゃんも大学に行くだろうと予測して
必死で勉強し、大学を受けて合格した。
しかし、手紙には、みゆきちゃんは 銀行に就職する、と、書いてあった。
高校三年の冬。オフコースの「さよなら」が流れていた。
あの寒い冬・。やっと、抑圧された高校生活を追えて、ぼくの愛は止まらず。
「さよなら」といわれても、気持ちはそのままだ。
オフコースが好きなんだ。男のくせに・・。

